もし、
ジゲンがあんなに引きずっていた元彼女が、毎日目の前にいたら、
ジョージが好きだよ、と繰り返し言ってもらえたとしても、
あたしは自分に負けてしまうかもしれない。
どれだけしんどい思いをさせているのだろうか、と思う。
こころの中の変化とは関係なく、
事実としての過去は、あたしから離れることはない。
あたしは、その過去を持たないあたしになることはできないんだ。
どうしたって。
だから、ジゲンが吐き出した苦しみに対して、あたしは何も言えなかった。
問題が、その過去を持つあたしそのものである以上、
あたしごといなくなることくらいしか、できることなんてないような気がした。
人生の優先順位なんて、はっきりしている。
大切なものを守るためなら、会社なんてぜんぜん辞めれるんだよ。
生活を変えることだってできる。
だけどそれは、今ジゲンが望んでいる答えではないような気がした。
ジゲンに好きだと伝えた日から、覚悟なんて決めてるんだよ。
手に取ることなど、許されない光だと思っていた。
だけど、取りたいと願ってしまった。
今のあたしに、他に失うものなんてあるだろうか。
どうしたらいい?と問うジゲンに、
一緒に暮らそうか、という言葉が喉まで出かかった。
それはずっと考えていたことだから。
だけど、あたしたちの生活を、苦しさから逃げるための選択にはしたくなかった。
さみしい時は一緒に眠ろうね、
お風呂が怖いときは一緒に入ろうね、
一緒に生きようねって、
そんな風に、あたたかな気持ちから始めたい、始めなければだめだ、と思った。
あたしが通ってきた30年は、あたしが前に進むことを許さないのだろうか。
望みなんてひとつだけだ。それすらも叶えることを許さないのだろうか。
あたしにはそんな資格はないのだろうか。
あなたの笑顔を守りたいなあ、ずっと一緒に笑っていたいなあ、
願いはそれだけ。それだけなんだよ。
あたしは、あたしでいることしかできない。
あたしでいることしかできなくて、辛い想いばかりさせて、本当にごめん。
だけど。
あたしは、あたしでいることしかできないけど、
見ているのは前だけなんだよ。
ジゲンとの前だけなんだよ。
見ているのは前。
前なんだよ。
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